理髪店の顔剃り

東京に越して数日。近々人に会う予定があるので髪を整えようと店を探していた。

進学で地元を離れて、最初の美容院を見つける時と同様に、どの店が良いかあれこれ考えていた。

すると、家のすぐ近くに美容院ならぬ「理髪店」があった。

理髪店なんて、最後に行ったのはいつ頃だろうか・・・。少し懐かしさもあってその店に行くことにした。

僕の地元には、長年ご夫婦で営んでいた理髪店があった。僕の父もよく通っていて、その父に連れられて行ったのが最初だった。

店の中には週刊少年ジャンプが欠かさず置かれており、それを読みながら学校のことや家族のことをご夫婦の旦那さんに話すのが僕のスタイルだった。小学校に入る前から高校を卒業するまで、その店以外で髪を整えたことはほとんどなかった。

僕が大学生の時に、ご夫婦は店を畳んだ。今でも帰省した時には顔を合わせれば自分の近況を話したりしている。

その店が閉店してからは、僕は進学先の街で若者向けの美容院にずっと通っていた。若い店主とは漫画やプロ野球の話で度々盛り上がることもあり、居心地が良かった。今振り返ってみれば、理髪店や美容院での人との何気ない会話は、自分にとって心の支えになっていたなぁと感じる。

そして、東京のこの街にやってきて初めての散髪。予約ができない店のため、先客がいて待つことになったが、その店のご主人もご主人のお母様も人柄がよく、どこか地元の理髪店を思い出させるようで居心地が良かった。

なかでも、顔剃りをしたときにハッとさせられた。「そういえば、顔剃りができるのは理髪店だけだったな。」地元の理髪店では当たり前のようにしていたが、進学先の美容院ではまったくやっていなかった。顎から眼にかけて蒸しタオルがかぶせられた。額を剃った後は頬やあごを剃っていった。この辺りは何か決まった手順でもあるのだろうか、地元のご主人にされた時と全く同じだった。

「そういえば子供の時から顎を剃られる時、顔の前にあるご主人の手に鼻息がかからないよう、息を止めては少し息苦しさを我慢してたなぁ。」20年近く経った今でも、それは変わっていなかったようだ。

昔のことを振り返ってばかりだと弱くなるからやめたいのだが、どうしても所々でふっと蘇ってしまう。店を出てすっきりした刈り上げを撫で上げる。

せっかくだし、髪型も変えてみようかな。頭頂部は伸ばしてロン毛っぽくしよう。そう思いながら少し遅い昼食を食べにいった。

それでは。

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